活動方針

高度な技術を用いてより多くの社会的価値を生み出すための活動は、我が国にとって根源的な重要性を持ちます。言うまでもなく、工学的なあらゆる活動の最終的な目標は、社会的な価値を創成することです。また逆に、研究・開発によって生み出される新しい技術の優劣は、最終的にはそれによって生み出された社会的価値の多寡によって判定されるべきです。

このような、技術による社会価値の創成には、それにふさわしい体制が必要になります。それは、大きくは、価値創成活動の場を用意することと、人材の育成です。価値は、その提供者ではなく、利用者が決めるものであり、ここに工学的な人材育成の難しさがあります。すなわち、社会的価値は、

  • 直接的な技術上のアイディア
  • 技術を社会に適用して価値とするためのアイディア
  • 創成物をより多く利用してもらうための経営上のアイディア

等、広範囲のアイディアが連携してはじめて創成が可能になるものです。たとえば、技術の巨人企業として広く知られているGAFAも、その創業時に用いられた技術は、その当時においてもとりたてて優れたものとは言い難いものでした。必要とされる技術を、必要とされる形態で提供したから今日があります。

工学の特性は、科学的研究と比較してみるとよくわかります。科学は、自然現象の原理を明らかにするものであり、社会とは切り離された場でも意味を持つものですが、工学は、社会から切り離されると意味を持たなくなる性質を持ちます。

このような観点で見てみると、技術による価値創造のための人材育成は、大学等の既存の教育機関だけで完結できないことは明らかです。新規の技術上のアイディアを生み出すことが大学の使命ですが、それを材料として実際に社会に適用するためのスキルは、より社会に近いところにいる組織において実際に社会実装に参加しない限り得られないものです。このような人材育成を行う機構や活動の欠如が、我が国の大きな欠点であると言っても過言ではありません。最近でも、大学の発明による収益が、米国の場合よりはるかに少ないことが話題になっていますが、このような欠如を如実に表した例であると考えられます。大学教員の評価基準が学術論文の質、量である限り、今後も改善される見込みはなく、たとえば、技術の社会実装とそのための人材育成を主眼とした独立組織を大学と企業の間に別途設けることが有効な方策になると考えられます。すなわち、大学や企業の守備範囲を無理に広げるのではなく、それぞれ明確な目標と評価基準を持った複数の異なる組織が連携することが、もっとも効率の良い方法です。

このような観点から、既存の教育機関とは別に、実際に社会実装を行いながら、それに必要な人材の育成と価値創造活動を行うことを主眼とするのが、momoi.orgです。社会実装は、通常の経済活動ばかりでなく、オープンソース活動も対象とします。社会に近い位置で、技術そのものだけでなく、技術による価値創造を主眼とした活動を行ってまいります。

エンジニアに対する価値創造教育

我が国の’失われた30年’は、産業全体が、明治期から続くキャッチアップ型からイノベーションを目的とする新規価値創造型に、総体的に移行するために必要な期間であったと言えます。その過程で、最近になってやっと、我々に欠けていたものが明確になってきました。今後は、欠けている部分を早急に解消し、我々の強みを生かせる体制を構築することに注力すれば、大きな成功が待っていると確信しております。ただしそれは、必要な変革をやり遂げた場合に限ります。

技術系人材に関して考えると、エンジニアは、とかく、ビジネス上の戦略や、市場の状況と無関係に、自分たちが設定した評価基準での改善に注力しがちです。これは、あたかも、何のためであるかはとりあえず棚上げして努力する、受験勉強のようです。momoi.orgでは、そうならないための方策も追求します。そのためには、まず、エンジニア自身が、価値創造の手法を身に付けている必要があります。

このために、主に、2つの点に関する習得が必要と考えられます。その一つは、「価値」とは提供者ではなく、利用者が決めるものであることの理解です。今一つは、総括的なビジネス戦略を立案するスキルです。これらは、通常の学校教育で触れられることが少ないので、演習を通じた習得コンテンツを用意しています。

エンジニアが身に付ける価値創造の技法とは、起業の技法とは少し異なります。起業も価値創造の手段の一つですが、既存の企業の内部でも、今後、イノベーションに向けた不断の努力が必要となります。そのためには、技術に関する深い理解を伴った価値創造の手順が必要であり、そのようなことを可能にする人材を育成することは、産業全体の喫緊の課題です。